■取引履歴の開示請求をするとデメリットになりうる場合があることについて説明します。
まず任意整理、自己破産、個人再生、過払い金請求のいずれの手続きも、まずは、債権者(あるいは元債権者)に対し、過去から現在に至るまでの全ての取引履歴(借入れ額と返済の金額・日付の記録)の開示を求め、取引内容を確認することから始まります。
特に利息制限法を超過した高利な貸付が過去行われていた場合には、取引履歴を元に利息制限法に基づいて再計算を行い、残債務の額や過払い金の額の目安をつけることにつながりますので、取引履歴の開示請求は、極めて重要といえます。
また、過払い金も最終取引日(なお、途中完済がある場合には、最終取引日がいつになるのかも争点となります。)から10年で消滅時効により回収困難になりますので、その確認の意味でも取引履歴の開示請求には大きなメリットがあります。
では、デメリットとなりうる場合とは?
取引履歴の開示請求は、前述のとおり過払い金請求や債務整理の前提として行われることが多いことから、請求される貸金業者からすると過払い金請求や債務整理を検討しているのではないかと警戒し、もしかしたら貸付限度額を引き下げたり、新たな貸付けを手控えたりするような不利益な取扱いをしてくることもあるかもしれません。
もちろん、取引履歴の開示請求は正当な権利行使でありますので、それを理由に顧客を不利益に扱うことは不当といえます。ただ、もしそのような不利益な取扱いをしたとしても、貸金業者は取引履歴の開示請求を理由に不利益な取扱いをしたとは決して認めないでしょう、結局のところ理由が明確にならない以上貸金業者に抗議していくのも難しいといえるでしょう。
そのため、その貸金業者との取引を継続又は拡大していくことを希望されている場合には気をつけたほうがいいかもしれません。
もっとも、借金に困った多くの皆様から相談をお受けしている司法書士である私の立場からすると、貸金業者と縁を切り、借金生活を継続しないようにして頂きたいというのが正直な気持ちです。ですので、貸付が抑制されることが「不利益」といえるかどうかは考えさせられるところです。ただ、借入れをされている皆様の中には様々な事情もありえますので、一応ここで紹介させて頂きました。
【過払い金請求】の場面でデメリットになりうる場合とは?
まず、既に借金を全て完済し、今後も取引を継続する予定もなければ、取引履歴の開示を請求しても、過払い金請求に支障をきたすことはないでしょう。
しかし、現在も借金が残っている取引の取引履歴の開示を請求した場合には、その後の対応次第で過払い金請求に支障をきたす可能性があります。
※なお、過払い金請求が必ずしも認められないという意味ではありませんのでご注意ください。
【事例】
貸付や返済を継続中に、借主自身が自分で、過払い金があるかどうかを確かめようと考えて、とりあえず貸金業者に取引履歴の開示だけを求めて取引履歴を取寄せた。しかし、直ちに過払い金請求手続きをせず、約定どおりそのまま返済を継続してしまった。その後無事完済してから業者に過払い金請求をしたところ任意の話合いでは返還を拒否してきた。
(解説)
この場合、将来借主が貸金業者に対して過払い金請求をすると、貸金業者は、以前に取引履歴を取り寄せていることから、それ以降の返済については、借主が過払い金の存在を知ったうえで任意に返済を継続したものだとして民法第705条の「非債弁済」(=債務がないのに弁済すること)を主張し、過払い金の返還を拒否してくる場合があります。
実際、私が関与した過払い金返還請求の訴訟で、業者から非債弁済の主張がされたことがありました。
もちろん、貸金業者から開示される取引履歴は、一般的に利息制限法所定の制限利率を超えた高い利息をもとに計算されたものであることが多く、これを利息制限法所定の制限利率に引き直し計算をしてみなければ過払い金の有無や金額を判断することは通常困難です。ですので、取引履歴を取寄せただけで、それ以降は借主が当然に借金が存在しないことを知ってて返済を継続していたとはいえません。(ただ、貸金業者によっては利息制限法に基づいて引き直した計算書を開示してくるケースもありますので、その場合には反論するために少し工夫が必要となるしょう。)
また、過払い金請求に対して貸金業者は、様々な反論を主張して過払い金の有無や金額を争ってくることが通常ですので、その意味でも過払い金の有無や金額を知っていたと断定するのは難しいといえます。この点、先ほど貸金業者によっては利息制限法に基づいて引き直した計算書を開示してくるケースもあると紹介しましたが、その場合でも過払い金を承認するものではないと貸金業者が注意書きをつけていることが多いので、過払い金の有無や金額を知っていたとはいえないとの反論が考えられるでしょう。
更に、貸金業者の過払い金の有無に対する認識が明らかでない段階で返済を止めれば期限の利益を喪失し延滞金や一括返済を求められる危険を負うことにもありますので、返済を継続せざるを得ない状況に置かれているということも見過ごしてはいけないでしょう。
そのため、『債務がないことを知って』『任意に』弁済したとは言い切れないことから、貸金業者の非債弁済の主張に対して逆に反論をしていくことも十分可能だとは思います。
しかし、ケースごとに具体的事情も考慮の上で、あくまで裁判所の最終判断によることでもありますので、絶対に大丈夫とは言い切れません。また、履歴を過去開示請求したことがない人に比べれば、過払い金の返還をうけるために余計な手間や負担が増えることも考えられます。
ですので、もし取引履歴を取寄せられた場合には、できれば早めに過払い金請求をすることが望ましいと思います。ただし、借金が残っている状態での過払い金返還請求手続きについては、信用情報(ブラックリスト)への影響がないとは言い切れませんので、その点を心配される方は、メリット・デメリットを考慮のうえ、慎重にご判断をして頂く必要があると思います。
以上、取引履歴の開示請求に関心がある方は、参考にしてみて下さい。
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