時効は、相手方に対し時効援用の意思表示をしたときに初めて時効による債権消滅の効果が確定的に生じます(民法第145条)。
では、どのようにして相手方に時効援用の意思表示をすればよいでしょうか。
借金の消滅時効の援用方法について概ね以下のような方法が考えられます。
(裁判前の場合)
①相手業者に電話で伝える。
②相手業者が自宅等を訪問してきたときに直接口答で伝える。
③相手業者に書面で伝える。その中でも
(1)FAXを利用する。
(2)普通郵便を利用する。
(3)記録郵便や書留郵便を利用する。
(4)内容証明郵便(配達証明書付)を利用する。
(裁判中の場合)
裁判前の方法に加えて、
①消滅時効を援用すると記載した答弁書や準備書面を裁判所と原告(相手業者)に送付する(民事訴訟規則第83条)。
②法廷で消滅時効を援用するとの陳述をする。但し、原告が不出頭の場合には、事前に消滅時効を援用すると記載した答弁書や準備書面を原告に受領させておかないと陳述できません(民事訴訟法第161条3項)。
では、それぞれのメリット・デメリットを検討してみます。
・裁判前の場合
①相手業者に電話で伝える。
(メリット) 電話代のみで費用が安く、手間もかからない。
(デメリット) 書面のように目に見える形では、時効を援用したとの記録が残せない。また、相手業者が時効の主張を思いとどまらせようと威圧的な態度をとったり、甘言を用いてくるなどの危険もある。
②相手業者が自宅等を訪問してきたときに直接口答で伝える。
(メリット) 費用もかからず、手間もかからない。
(デメリット) 時効を援用したという明確な記録が残せない。また、相手業者が時効の主張を思いとどまらせようと威圧的な態度をとったり、甘言を用いてくるなどの危険もある。
③相手業者に書面で伝える。
(1)相手業者にFAXを送る。
(メリット) 通信費のみで費用が安い。
(デメリット) 時効を援用したという明確な記録が残せず、相手からFAX届いていませんでしたと言われかねない。
(2)普通郵便で送る。
(メリット) 郵便代が安い。
(デメリット) 文書が相手方に届けられたことを証明できず、相手方から書面は届いていなかったといわれてしまう危険がある。
(3)記録郵便や書留郵便で送る。
(メリット) 書面がいつ相手方に届けられたかを証明できる。
(デメリット) 相手方にどのような内容の書面を送ったについては証明できず、相手方からは文書は届いたが時効を援用する書面ではなかったといわれてしまう危険がある。
(4)内容証明郵便(配達証明書付)で送る。
(メリット) 消滅時効を援用する内容の書面が相手方に届けたられたことを証明することができる。
(デメリット) 他の郵便に比べて費用がかかる。また文字数や行数など内容証明郵便の独特のルールにしたがった文書を作成しなければならない。
・裁判中の場合
①消滅時効を援用すると記載した答弁書や準備書面を裁判所と原告(相手業者)に送付する。
②法廷で消滅時効を援用するとの陳述をする。
この場合には、裁判の終了の仕方により異なりますので、場合を分けて説明します。
(1)相手方の請求を棄却する判決が出たり、相手方が請求を放棄をし、裁判が終了した場合
(メリット) 裁判所の請求棄却判決や請求放棄調書という公的文書が手元に残る。
(デメリット) 裁判への対応を判決や請求放棄がされるまで続ける必要がある。
(2)相手方が訴えを取下げし、裁判が終了した場合
(メリット) 裁判が早期に終了し、裁判への対応を続ける必要がなくなる。
(デメリット) 消滅時効の可否について何ら結論が示されない。もちろん請求棄却判決や請求放棄調書のような公的な文書も手元に残らない。
なお、訴えの取下げが効力を生じると、訴訟継続は遡及的に消滅するとされています(民事訴訟法第262条1項)。そのため、訴訟中になされた消滅時効援用の効果が訴えの取下げによって、どのような影響を受けるのかという懸念も生じます。また、裁判所での事件記録等の保存期間についても、請求棄却判決の原本は50年、請求の放棄調書は30年となっていますが、それ以外の、例えば消滅時効の援用を記載した答弁書や準備書面は5年と短い(最高裁判所 事件記録等保存規程を参照)ことにも配慮が必要である。
※ところで、あさひ司法書士事務所では、以上のことを踏まえて基本的に相手方が訴えを取下げてきても、それに同意せず、請求棄却判決や請求の放棄をしてもらうようにしております。
但し、相手方が、借用書の返却や債務不存在証明書の発行に協力してくれる場合であれば、訴えの取下げに応じる場合もございます。
このあたりの対応方法については、依頼される事務所の方針によっては異なる場合もあります。
(まとめ)
それぞれのメリット・デメリットを考えて、いろいろな方法を組み合わせたり、あるいは別途借用書の返却や消滅時効援用後の残高がないことの証明書(債務不存在証明書)を相手方に求めるなどして、できるだけ後日のトラブルが発生しないようにすることが重要だと思います。
もし、弁護士や司法書士といった専門家に依頼する場合にも、どのような手法を用いるか、本当にその方法だけでよいのか、もし不安があれば遠慮なく依頼された先生とよく相談されることをお勧めします。また、消滅時効の援用手続きが終わりましたら、内容証明郵便等の書類は必ず受取るようにしておいて下さい。万一、何も書類はありませんと言われてしまったら、その理由をしっかりと確認し、本当にそれで終了してもよいのか、しっかり自分でも判断されたほうがよいでしょう。
過去に消滅時効の援用を専門家に依頼して解決したはずだったのに相手方から再度請求されてしまったが、当時依頼した事務所からそれがわかる書類を何ら受取っていないし、確認をとろうとしたらその事務所は今は無くなっていて連絡もできないし、本当に消滅時効援用をしてくれていたのかも定かでない、という相談をお受けすることもあります。くれぐれもご注意下さい。
なお、消滅時効を援用したものの、電話や普通郵便など何の記録も残らないような方法でしてしまって不安だという方がいらっしゃいましたら、今からでも再度記録に残すような方法によって消滅時効を援用することもできますので、そのような皆様は遠慮なくご相談頂けたらと思います。
あさひ司法書士事務所
司法書士久保正道
あさひ司法書士事務所は、大阪を中心に主に近畿圏(大阪・兵庫・京都・奈良・和歌山・三重・滋賀など)の方からのご相談・ご依頼をお受けしております。
消滅時効の援用・過払い金請求・任意整理・自己破産・個人再生を含む債務整理業務に特化して12年以上のキャリアをもつ司法書士久保正道が受付から面談・交渉、業務終了まで直接皆様の担当をさせて頂きます。
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